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全国に先駆けて昭和54年に蒸気機関車の運転が復活したJR山口線。今年も3月から、SL「やまぐち」号が今シーズンの運行を行っている。初日の3月19日には始発駅の新山口駅(山口市)に、風情のある鉄道旅行を心待ちにした観光客やカメラを携えた鉄道マニア、かっこいい汽車をひと目見たい親子連れたちが詰めかけた。その新山口駅にはこの春、ファンを喜ばせる新たなスポットも誕生した。旧0番ホーム跡に誕生した「SLひろば」だ。
SL「やまぐち」号が走っているのは、山口線の新山口−津和野(島根県津和野町)間。沿線には、湯田温泉や長門峡、山陰の小京都・津和野など、味わい深い観光スポットが点在する。
昭和40年代に各地でSLが廃止されて以降、旧国鉄の路線で初めて復活したのがここ。起点となる新山口駅は、山口線のほか、山陽新幹線や山陽本線、宇部線の列車が出入りする県内随一の鉄路の“要衝”だが、かつての駅名「小郡駅」の方がなじみ深いという人が多いかもしれない。
明治33年、山陽鉄道の小郡駅(当時は小郡村、翌年に小郡町)として開業し、機関庫が設けられるなどして、小郡は「鉄道の町」として発展を遂げた。山陽新幹線が博多まで延びる際には、国鉄が「山口」を含む駅名への改称を打診したものの町側が拒否したとのことだが、山口市との合併を控えた平成15年、現駅名の「新山口」として生まれ変わった。しかし、名前が変わっても、SLが発着し、すぐそばにSLの検修庫や転車台を備えたこの駅は、ファンにとって間違いなく“聖地”なのだ。
運行開始日の3月19日午前10時20分、1番ホームに“貴婦人”の愛称で親しまれている蒸気機関車「C57」が姿を現した。優美なフォルムに力強さを感じさせるメカニズム、白い煙、郷愁を漂わせる汽笛…。待ちこがれていたホームの人たちを圧倒する。
やがて、貴婦人が引き連れていた5両の客車が扉を開き、乗客を招き入れた。1号車は「展望車風客車」。赤を基調とした高級ホテルのような車内だ。2号車はオリエント急行を思わせる「欧風客車」。3号車の「昭和風客車」はレトロな電灯がともる。ランプが革張りのシートを照らす4号車は「明治風客車」。最後尾に展望デッキを備えた「大正風客車」が5号車となり、いずれも旅愁を駆り立てる。
例年なら、スタートまでの間にホームで出発式典が開かれ、「一日子ども車掌」の任命式や機関士、整備士らへの花束贈呈などが行われるのだが、今年は東日本大震災の被災状況に配慮して取りやめ。それでも、公募で選ばれた岡田峻佑君(7)=兵庫県西宮市=と岩永渚さん(7)=山口市=の2人が、制帽をかぶり、タスキを着けて元気よく車内へ乗り込んだ。
午前10時47分、一段と高い汽笛とともにSLが動き出した。車内では、峻佑君と渚さんが「本日、車掌を務めます」と元気よくアナウンス。2人は各座席を回って「切符を拝見します」と言って検札業務をしたり、スピードくじを配って回ったりして、乗客から「かわいいね」と声をかけられていた。
「切符にはんこを付けるのが楽しかった」と峻佑君。渚さんも「新山口駅の近くに住んでいるので、ずっとSLに乗りたいと思っていました。うれしい」と満足げだった。
こうしてシーズンが開幕したSL「やまぐち」号。新山口駅に新たに加わったスポット「SLひろば」は、前日の18日にオープンした。こちらも、予定されていたにぎやかなお披露目セレモニーは、震災に配慮して自粛。それでも、初日から熱心なマニアや地元の親子連れたちがひっきりなしに訪れていた。
「旧『0番ホーム』の線路部分の約半分を、ホームの高さまでかさ上げして、SLひろばが生まれたんです」とJR山口地域鉄道部の岡村孝部長が説明する。0番ホームは昨春のダイヤ改正で廃止されたが、このホーム付近はSLの発着などで大勢の人たちが詰めかけることから、危険防止が一番のねらいだったという。
かさ上げして1番ホームとフラットになった広場には、“デゴイチ”として人気を博した蒸気機関車「D51」の主動輪を展示。直径1・4メートルもある大きな左右の車輪が軸でつながり、重さは3・3トン。訪れた人たちは、その迫力に目を見張る。「同じ山口県内の美祢線で活躍していたD51の主動輪です」と岡村部長。ひろばにはこのほか、小郡駅時代の駅名表示板や腕木式信号など、ファンを喜ばせる“お宝”が並ぶ。
そしてメーンは、かさ上げせずに残した約半分の線路部分で行っているC57の展示。運転台の釜に火が入った状態で車両が公開されているのだ。
「SLが大好き」とはしゃぐ、近くの大下陽生君(3)は母親と一緒に運転台に上がり、機関士から燃料の石炭をプレゼントされて大喜び。子供のころから復活運転を見守っていたという同県下関市の大学3年、多賀和雄さん(22)は「ベンチがあれば、SLをじっくりながめながらゆっくりできていいなあ」と話しながら、ビデオカメラを回していた。
今シーズンのSL「やまぐち」号は、土・日曜や祝日を中心に11月20日まで計88日間にわたり運行される。C57の展示公開は、その前後に当たる10月31日までの月、金曜にひろばホームで行われる(月曜は午前9時40分〜11時40分、金曜は午後3時半〜5時半)。
運転再開から32年目を迎えた今年。夏ごろには利用客が累計で200万人に達する見込みだという。製造から70年以上が過ぎたC57は、まさに「走る文化遺産」。いつ止まってしまっても不思議ではない危うさの中、一日でも長く力強い動きを見せ、ドラフト音を聞かせてほしい。(小林宏之)
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